この世界の何処かに、死者の国へと通じる入り口があるらしい

もし、その世界へと行けたなら

大切な人を取り戻すことができるかもしれないよ








01.日常の中の幸せ









あの日のことは、今でも鮮明に覚えている。

不気味なほどに静まり返った森。
憎いほどに綺麗に輝く星々。
冷たくなってゆく貴方。

後悔ばかりが頭の中を駆け巡る。

自分たちはただ、二人で幸せに暮らしたかった。
ただ、それだけだったのに。





+・+・+





いつものように、今日も空は綺麗だった。
今歩いている街も、いつもと変わりなく店がずらりと並んでいる。
そして今日も、いつものように街の中心にある噴水へ来ると、その淵へと腰掛けた。
今は昼過ぎということもあり、街は食事をする人で溢れかえっている。
金色の髪をした少年は、そんな人々を眺めながめると、ゆっくりと、その緑色の瞳を閉じた。
そして軽く息を吸い、詩を詠いだした。




きっとこの世界は、とても素晴らしくて美しい
今私たちが此処に居るのだって、きっと奇跡に近いこと

時には辛くて逃げ出したい事もあるでしょう
悔しくて泣きたい時もあるでしょう
だけど忘れないで
あなたを支えてくれる人が居ること
あなたは一人ではないということ

今がどんなに辛くても
いつかきっと笑えるときが来るから

だから

一日一日に悔いが無いように
一緒に歩んで生きましょう

明日も、明後日も、その先も
一緒に歩んで生きましょう

いつか、最後の時が来た時に

笑っていられるように・・・





詠い終わると、またゆっくりと目を開けた。
最初に瞳に写ったのは、目の前にできた人だかり。
毎度の事ながら、その光景に少し驚いてしまう。
「お兄さん、また来たの?」
目の前で座って聞いていた女の子が話しかけてきた。
「うん、また来ちゃった」
金色の少年は、にっこりと微笑みながら少女にかえした。
それを皮切りに、あちらこちらから称賛の声が飛び交いだした。
「兄ちゃーん!今日も良かったよ!!」
「ありがとう」
「また来ておくれよ。うちに来たらサービスするからさぁ」
「うん、今度行かせてもらうね」
一人、また一人と、人々は町へ戻っていく。
金色の少年は、飛び交う声に一つ一つ丁寧に答えながら、街中へ戻って行く人々へ手を振り続けた。
そして、誰も居なくなると、はぁと一つため息を付いて、噴水を後にした。





+・+・+




森の小道をザカザカと進む。
一応道はあるのだが、もう殆どこの道を通る者はおらず、道の端々に雑草が生えている。
金色の少年は、それらの草を踏み均しながら、更に森の奥へ、奥へと進んでいった。
右手には、沢山の野菜と果物が入った布袋がしっかりと握られている。
もう半時間程歩いた頃だろうか。
小さな小さな家が見えた。家というよりは、小屋に近いかもしれない。
無駄なものが一切付いておらず、あるのはドアと少しの窓くらいである。
全てを木で造られているその家は、森の中にひっそりと佇んでいた。

金色の少年は、その家のドアノブに手をかけると、思いっきり引っ張った。
「来たぜー、リト!! 今日の調子はどうだ?」
開けると同時に、この家の主であろう者に問いかける。
すると、部屋のおよそ右端に置いてあるベッドの中から、小さな声があがった。
「こんにちは、リーフ。 今日も私は元気だよ」
そう言うと、ベッドの中にいた少女は、ゆっくりと体を起こした。
肩までの亜麻色の髪は少しウェーブがかり、太陽のような橙がかった瞳は、優しげにリーフを見ていた。
「いいよ寝てろよ。あんま無理すっと、また体調崩すぞ」
「嫌よ。ずっと寝てる方が苦しいわ。せめてリーフがいる間だけでも起きていていいでしょ?」
そう言われると、リーフは否定できない。彼女の言い分も分かるし・・・。
「体調悪くなったら、すぐ俺に言うんだぞ」
「うん!」
リトは嬉しそうに頷くと、布団の中から足を出し、ベッドに腰掛けた。
リーフは、そのままキッチンへ向かう。
もう日没も近いため、夕飯作りだ。
「今日も俺が飯作ってやっからさ。で、何がいい?」
「何でも。・・・ごめんね、いつもありがとう」
「いいって。俺とお前の仲じゃん」
リトは、そうねと軽く笑うと、部屋の中に唯一あるタンスへと向かった。
「今日の夜、一緒に散歩してくれないかしら?最近はずっと一人でしてたから、たまには誰かと一緒に歩きたいわ」
「おう、いいぜ。じゃあ飯食った後な」
リーフは、愛用のエプロンを付けながらリトへかえした。
リトは、ありがとうと言うと、タンスの中から変えの洋服を出し、久々の二人きりのデートにわくわくしていた。





+・+・+




「でさー、今日も大盛況だったわけ」
リーフは食事をしながら、今日街であったことを話していた。
リトも食事をしながら、その話に耳を傾ける。
ちなみに今日の食事は、野菜のスープに果物という至ってシンプルなものだ。リーフなりに病弱のリトを気遣ったものらしい。
リーフにとって、毎日夕食を作りに来ることは日課になっていた。
元々肉が苦手であり、かつ病弱であるリトにとっては、野菜と果物中心の食事はとても嬉しかった。
毎日夕食を食べながら今日あったことを話す。
それが二人の唯一の楽しみでもあった。
「そういえば、まだ相変わらず猫被ってるの?」
リトからの唐突な話題に、リーフは一瞬目を丸くさせる。
「あったりまえじゃん!素の俺でやっても誰も聞きゃしねぇよ」
「ふーん、そうかなぁ。私は素のリーフが好きだなぁ。丁寧口調のリーフなんて気持ち悪い」
リトが軽く笑いながら言う。
・・・聞きずでならない。
でも、本気で言っていない事は顔を見れば分かった。
二人は軽く笑い合うと、また食事を進めた。

こういう何気ない日常が、二人にとってはとても大切で、幸せな時間だった。









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